俺の裡〈うち〉で鳴り止まない詩

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「これは…タレ!!すっごくおいしいタレだわ!!」
― 味吉法子/第5巻「タレは中から」より





うらぶれたバーカウンターの隅にワケあり風のアベックが座っている。
真っ黒なサングラスをかけた男の身のこなしからはひっそりとした暴力の匂いが立ち上る。

カウンターの向こうのバーテンに、男が言う。
「めしをくれ」

「?」
怪訝な顔を見せるバーテン。
男の隣にすわる情婦風の女がすかさず口をはさむ。
「ライスのことよ」

白飯にエクスタシーを感じる殺し屋が活躍するアクション怪作、
「殺しの烙印」の名台詞の一つだ。

"ライスのことよ"って説明されたところで一体どうすれば、という。
このキュートでスタイリッシュな間抜けさはどういうわけだ。

例えばジム・ジャームッシュの映画全般に流れる空気もそういうことなのかもしれない。

スタイリッシュ間抜け。

黄金比のようにクールで完璧なカタにはめ込んではいるが、
わざと画竜点睛を欠くことで間抜けさとキュートさが生まれる。その味わいがクセになる。

そう思えば鈴木清順の「殺しの烙印」へのオマージュとして
ジャームッシュが「ゴースト・ドッグ」を作ったのも当然の流れということか。





老舗の天ぷら屋「天星」のガンコ親父との対決。
陽一は足りない技術を補うべく、特大かき揚げ丼で勝負することに決めた。

しかし特大なだけにかき揚げの中までタレが染み込まない。
陽一が苦心のすえ編み出した奇策、それはタレを寒天で固めサイコロ状に切り分け、
かき揚げのタネに混ぜ込む、というものだった。

黒く小さなサイコロを目の前に
陽一の母、法子は「何なのこの四角の黒い固まりは!?」と訝しげ。

「食べてみてよ」という陽一の促しに
ぽいと口に投げ入れるや驚愕の表情で放つセリフが今回の言葉。

「すっごくおいしいタレ」

一体何なのだろう、この間抜けさは。なんのひねりもない。なんの説明もない。
だのにこんなに愛らしい。
なぜだ。キュートだ。箱庭に入れて愛でていたいのだ。

「すっごくおいしいタレ」

天才たちの仕事は常に呼応しあう。

鈴木清順-ジム・ジャームッシュ-ミスター味っ子

なんと美しい間抜けトライアングルか。









[ 2013/12/28 14:19 ] 味っ子 | TB(-) | CM(-)