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プライドを吸ってくる人

■ どちらかといえば柔和な雰囲気で、評するなら「明るく優しい」なんて人が、例えばレストランに入ったときに店員に対して急に態度がでかくなって乱暴な口調でオーダーし始めたりして、は?なんで?ってなる。

あるいはなんの拍子かいきなり過剰に尊大な態度に変わる上司、あるいはタクシーで、あるいはコンビニで、声を荒げたり、店員に金を投げたり、あるいは車いすを誰かに担いでもらってる当の本人はタバコをすってるとか、自分とは関係ない出来事なのに烈火の如く怒り狂ってるネット上の誰かとか、やっぱり「は?」ってなる。

「ストレスたまってんのかしら」「醜いな」で終わらせても良いわけだが、なんだか引っかかる。
「ゲスだな」と顔しかめつつ、自分の中にもその醜さが小さく、ゲスの種みたいなものがあるような気も。



■ 「山谷崖っぷち日記」というエッセイというかルポというか、開高健賞を受賞した名作だが、これは自身も山谷の労務者として暮らす主人公がドヤ街の人間模様というか削り合いというかじりじりと脂汗の出るような地獄の風景を活写した見事な作品なわけだけど、その中の一編で主人公が、ひょろひょろとして体も心も小さい労務者と出会うくだりがあって、その小男の立ち居振る舞いというものが実に胸に迫って忘れられない。

体も心も小さいから日中は周囲の人間に小突かれて生きている。バカにされてこけにされて、ドヤに帰ってもなんのかんの因縁をつけられてはババを引いてるような男。しかし男は周囲が寝静まった深夜になると態度を変える。ひとり真っ暗な流し場に行きブツブツとつぶやきはじめる。

「昼間のあいつは刺しても良かった。ドスは持ってたんだ。でもギリギリで許してやった。いつでも殺せるんだ。俺はもう何人も殺ってるしバックに誰がついてるのか知ってるのか。お前らなんていつでもシメれんだ」

周りに聞こえるかどうかの小声でずっとブツブツつぶやいている。主人公はドヤのベッドに横になってそのつぶやきを聞いている。やがてそのつぶやきが耳に障った周りの人間が「うるせえ黙れ!」と怒鳴りつける。小男は黙る。もう一言もしゃべらない。

僕は自分が非力で痩せぎすなもんだから、この小男にシンパシーを感じてしょうがない。
シンパシーを感じるし、滑稽だし、なによりグロいなと思う。
グロテスクな人っていうのはプライドのバランスが壊れてる、てことかと思う。

逃げればそれだけ削られる。あっけらかんとげっそりと削られる。店員を怒鳴りつけても取り返せない。お金を払って優位に立ってるうちに、酒を飲んで気が大きくなってるうちに、出来るだけ他人のプライドを吸い取ろうとちゅうちゅうしてるだけで結局は土俵の外の話だ。無関係の人間だ。取り戻せるわけもない。一時的に気が紛れるだけだ。



■ 「ミステリー・ゾーン」というか「トワイライト・ゾーン」シリーズの原作者でも知られてるが、リチャード・マシスンという作家の傑作に「縮みゆく男」というのがあって今読んでんだが、放射能汚染と殺虫剤の影響で一日に3.6mmずつ体が縮んでゆく男の話。これはまぎれもなく男のプライドをめぐる話で、主人公は一日に3.6mmずつ確実にプライドを削られていく。子供のような背丈で馬鹿にされ気味悪がられ、不思議人間として世の好奇心の的にされ、いっそ頭の中も子供に戻ってしまえばいいのにそこだけははっきりと大人。怒りも絶望も性欲もそのまま残ってる。だけど体は1m、90cm、80cmと縮んでゆく。

やがて男は身長1cmになって地下室で蜘蛛と闘う。飢えと渇きと寒さと、20mの高さに見えるコンクリの階段、ボタボタ水を落とす壊れた給湯器、臭い息を吐く猫。死んだほうがましだけど、男は自殺しない。泣いてわめいてもうイヤだと天を呪うが、それでももう一度立って、「がんばれ、がんばれ」とホウキから抜いた藁の一本を身体中を使って登っていく。

男はすべてを失っているがプライドはなくしてない。削られては取り戻し、削られては取り戻し、を繰り返してる。

しかしさ、しかしだよ、
生活って本当に厄介だなと思うのはENDマークが点灯するってもんでもないわけでさ。
削られては取り戻し、のサイクルには終わりがないわけじゃない。死なない限り。
「こんなこと何のためにやってんだよ!」って怒る人の気持ちもひしひし分かる。

今回は取り戻せた、百回目も取り戻せた。千回、一万回、十万回でもうまくいった。でも百万回目でへこたれるかもしれない。

そんなときにカミュの「シシュポスの神話」も、スチャの「ノーベルやんちゃDE賞」も同じことを叫ぶわけですが、曰く
「でもやるんだよ!」
とのことで、いやほんとそうだな。
"でもやってる"人は美しいな、そうありたいな、と思うのでした。









[ 2014/10/06 21:29 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)
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